Season1 SP
『悪夢!極悪戦隊』
(挿絵:ワルシルバー隊員)
「…………」
今日のワルレッドは、一睡もしていなかった。
徹夜しているわけではなく、まったく眠気が来ないのだった。
「……おかしい。オレの貴重な時間なのに」
羊を数えようにも10~20の間が怪しくなり結局数え切れないし、
難しい本を読もうにもそんな本などワルレンのアジトにはあるはずが無い。
しかし、横になって寝ていても時計や外の音が気になって全く眠れないのだ。
「……だー! くそー!」
ベッドから飛び降りて思い切り運動してみたら疲れて眠れるかもしれないと思ったが、
よけい目が冴えるだけで全く眠れない。もしかしたらずっと眠れないままかもしれないとレッドは不安になる。
「そうだ! 外を散歩してくれば眠くなるかもしれねーな」
レッドは、部屋にパープルやブルーがいないのを確認してから恐る恐る外へ出た。
真夜中の廊下は昼間と違って暗く、ギシギシと鳴るのがまた不気味だった。
「誰もいねぇのかぁ……?」
廊下にダンボールがあるのを見つけ、レッドは思わず笑みを零しそうになった。
すぐさま、ダンボールの上に飛び乗り、上から思い切り踏みつける。
しかし、ダンボールはぺしゃんこになっただけで悲鳴も何も聞こえない。
「ちぇっ、抜け殻かっ」
それから、レッドは古びた部屋の扉を一個一個開けてみるが中には誰も居ない。
そういえば夜は皆がどこで寝ているのかレッドは知らない。多分、皆で出かけているのだろうか。
そう思うとなんだかレッドは損したような妙な気持ちになる。
外へ出ると、綺麗な満月が出ていた。
室内より少し明るい事でレッドは安心した。早速歩き出すが外は物凄く寒い。
どうせなら布団でも被ってくればよかったと思うほどだ。だが、夜歩きは気分が良い。
「お、レッドじゃん」
空にパタパタと大きなコウモリが飛んでいると思ったらブラックだった。
バサバサとはばたいている羽をしまわぬまま、緩いカーブを描いてレッドの前に下りてきた。
「なんだ。ブラックか。お前も眠れねーのか?」
「は?違うよ。 ただの空中散歩さ」
「空中散歩か……。気持ち良さそうだな」
「あぁ、ぐっすり寝れるぜ」
「何! じゃぁ、オレも空中散歩することに決めた!」
「レッド、羽ないだろ」
「へへーん。 見てろよ。 ワルチェーンジ!」
レッドは、腕輪の付いた腕を高く上げ叫んだ。
腕輪から出た黒い光がレッドを包み、レッドは赤いコウモリに変身した。
「じゃ、散歩行くぞ」
「や、もう俺今日の分終わったし」
「なんだよつまんねーな。 一緒に行こうぜ」
「しゃーねーな……」
ブラックが飛び立つとレッドもその後を追う。
空から見た街の景色はなんとも綺麗でレッドはおぉ、わぁ、うぉぉなどと感嘆詞だけを喋る。
ブラックは見慣れているせいか空中散歩初心者のレッドを冷たい目で見るばかりだ。
「そんなに驚くもんかね……」
「オイ、あそこにいるのピンクじゃねーか?」
レッドの視線の先には、夜道をフラフラと歩くピンクがいた。
「どっかにいくんじゃねーの?」
「じゃぁ、こっそり付いていこうぜ!」
「え~……」
「オラッ、いくぞ!」
体当たりしてくるレッドに舌打ちを繰り返しながらブラックはピンクの上空を付いていき始めた。
ピンクはどうみてもただ徘徊しているだけに見えるブラックだったが、交差点に差し掛かると今度はクリームと落ち合う様子が見えた。
「クリームだ! ははーん。 さてはこのオレに内緒で悪事でもする気だな」
「どーかな……」
「オイオイ、あれも見ろよ!」
ピンクとクリームのグループの他にワラワラと隊員達が合流している。
まるで以前から計画していたかのようにわらわらと。それを見てレッドは急に腹が立ってきた。

「どう言う事だぁ……? このオレ様に内緒でみんなで集まりやがってよー!」
「……パープルはいないぞ」
「お? ブラック。お前、まさかこの事知ってたんじゃねーだろうなー!?」
「一応は」
「クソーっ! 何でオレだけのけものなんだ!」
「いや、いつも早く寝てるからじゃん……」
「うるせー! うるせーうるせーうるせー!」
レッドは、一気に急降下し、隊員達が集まって歩き出しているその先頭部分へ変身解除し、飛び降りた。
隊員達はたいして驚く素振りもみせずレッドを見ていた。それがレッドには物凄く気に食わなかった。
「やい! お前らこの隊長を置いてけぼりにして何してたんだ!」
「……飯食ったり、ゲームしたり」
「ゲーム!? ゲームってなんのゲームだ!」
「誰が一番多くスれるか。とか」
「クソ……面白そうな事やってんじゃねーぞ!」
レッドは、思い切り足踏みをしながら喉がはちきれんばかりに怒鳴りだした。
「なんで置いてくんだ! オレはのけものにされるのが大嫌いなんだーーーーっ!!!」
「…………」
「も、もうキレたからな! マジでぶちギレたからな!」
レッドは、ソバにあった標識を引っこ抜くと滅茶苦茶にそれを振り回した。
隊員達は逃げるが、怒りの魔王と化してしまったレッドはどうする事も出来ない。
「オレが隊長なんだぞーーーーっ!」
レッドはもはや隊員すらも認識しておらず、近くのショーウィンドーを滅茶苦茶に割り、
停まっている車を滅茶苦茶に叩き、そして、標識自身も滅茶苦茶になってしまう。
「オレは宇宙位置の悪者だぞーーーー!」
レッドの怒りの叫びが夜の街に響き渡る。
既に、レッドの周りには無数の残骸があった。まるでそこだけ爆撃をされたかのように。
肩で息をしながらレッドは周囲を見渡した。隊員達はいつの間にかレッドを取り囲んでいた。
「な、なんだ!?」
「……おめでとう!」
「は?」
「おめでとう」
「おめでとう」
隊員達は笑顔で次々に拍手をし始めた。それはまるでレッドのした事を褒め称えるかのように。
「実は、今日集まったのはレッドがなかなか悪の心を集められない為にみんなで考えた作戦だったんだ」
「な、なにぃ……」
「でも、どうやらちゃんと悪事できたみたいじゃん!」
「クククク……スゴイ……」
「素敵ね、隊長。素敵よ」
隊員達の拍手はますます大きくなる。レッドも思わず照れくさくなってしまい。側の瓦礫を蹴った。
「お前にしてはよくやった方じゃないのか」
頭を指で弾かれて振り返るとレッドの後ろにはコンパクトを持ったパープルが立っていた。
パープルの手の上のコンパクトが黒い光を放って点滅している。
「……早く採点してもらえ」
「へ、ヘン! 言われなくても採点してやるよ」
レッドはコンパクトの中央の宝石に触れるとコンパクトは今までに無いけたたましい音を鳴らし始めた。
『ワルイコワルイコドレダケワルイ……ワルイコワルイコドレダケワルイ……』
レッドは思わず顔を強張らせてしまったが、隊員達の拍手の輪はますます大きくなる。
それに後押しされてレッドは苦々しく笑った。
「……ジャン!……500点満点です!」
隊員達からワッと歓声が上がる。レッドはこんな結果が信じられず足が震えた。
パープルはニヤッと笑ったままコンパクトをレッドに渡した。
『もう、文句の良い様がありませんね。悪の心が一気に集まりましたよ』
「……ほ、本当か!?」
『はい、これで貴方の願いがついに叶う日がやってきましたよ』
「……こ、これでオレはついに宇宙一の悪者になれるんだな!」
隊員達だけではなく、街のあちこちから拍手の音が聞こえる。街の人々が拍手をしながらレッドを称えに集まってきた。
悔しそうに、警察官達も集まり口々に「おめでとう、おめでとう」と言っている。
「ワルレッド! ワルレッド!」
ワルレッドーコールがあちこちで巻き起こる中、隊員達がレッドを肩車する。
どこを見回しても皆、自分を称えている。皆がレッドを称えている。
「…………」
レッドは肩を震わせながら思い切りコンパクトを上に掲げた。
「やったぜーーーーーーーーーーーーー! オレが、一番の悪者だぁーーーーーーー!!」
「うるさいっ!」
突然、鼓膜が裂けんばかりの轟音が耳をつんざいた。
レッドの体は宙に飛び上がり、天井にぶつかりそのまま地面に落ちた。
「何時だと思ってんだこのバカレッド!」
「……な、なんだ。 お、オレは宇宙一の隊長様だぞ」
「寝ぼけてるんじゃないぞ……ったく」
「寝ぼけてるのはお前らだろ。ホラ、見ろ」

レッドは、何が何だか解らず、側にあったコンパクトを掴んだ。
中を開いてみるが全く反応が無い。
「ありゃ……な、なんだ……」
「可哀想にな。こんなバカが隊長で」
「ホントだよ。まったく」
パープルの言葉に隊員達が落ち着き部屋から出て行くとレッドはまだ何が起こったのか理解できていなかった。
「なぁ、パープル。オレ……」
「そうだな。 お前は宇宙一の悪者になったんだよな。間違ってないぞ」
「そ、そうだよな。 よかったー。 アイツら頭どうかしちゃったんじゃねーのか」
レッドはベッドに飛び乗り、気分爽快といった風な笑顔を浮かべて目を閉じた。
「はー……良かった良かった……」
しばらくすれば、レッドからは寝息が聞こえてくる。
あっという間の睡眠に入る速さだけは宇宙一かもしれないとパープルは思った。
「……悪い奴ほど良く眠るか? くっだらねぇな……」
パープルは、レッドの部屋から出ると、何やら大広間の方が騒がしいのに気づいた。
行ってみれば大広間には明かりがつき隊員達が、鍋を突いていた。
「……お、ワルパープル。 お前も鍋食う?」
「や、俺は物食わない……。何やってんだ?」
「隊長のせいで全然寝れないからみんなで鍋食ってんだよ」
「夜食は素敵。素敵よね。ウフ」
鍋の良い匂いが部屋に広まっていく。
ワイワイと騒いではいるこの光景を目の当たりにしてパープルはレッドの部屋の方を振り返った。
「ホントあいつは悪運すらねぇな」
「どうせ、一度寝たら起きねーんだし。 ほっとけほっとけ」
「美味い美味い」
「……ちょいと貰うぜ」
パープルは鍋の中から白菜をひょいと取るとそのままレッドの部屋に向った。
レッドは大口を開けながら嬉しそうな顔で眠っていた。
パープルは、さっきつまんできた白菜をレッドの口の中にひょいと入れてやるとそのままもごもごと食べ始めた。
「美味いか?」
レッドは、ニヤニヤしたまま寝息を立てていた。
「早く宇宙一の悪者になってみろ……隊長のメンツ丸つぶれだぜ。お前」
パープルはベッドの上に座って窓を見た。雪がちらちらと降り始めていた。
もう、本格的な冬がこのオオサカシティにも訪れようとしているのだ。